「求人を出しても、一件も来ないんですよ」
秋田で経営者の方とお話ししていて、この2〜3年でいちばん増えた言葉です。求人媒体を変える、掲載料を上げる、紹介会社を使う。だいたいこの順番でお金が出ていきます。
ところが、日本政策金融公庫が出している『AFCフォーラム』2026年8月号に、順番がまるごと逆の事例が載っていました。
岐阜県のある法人は、年間の残業時間を280時間減らしました。その結果、求人への問い合わせが改善前の12倍になった、と報告されています。熊本県の別の法人は、1人当たりの労働時間を月平均195時間から163時間へ減らし、完全週休2日制にしたところ、育児介護休暇を使った人が全員職場に戻ってきました。
どちらも、求人広告に一円も足していません。直したのは求人ではなく、職場のほうです。
「人手不足」を翻訳すると何になるか
この号で農林水産省の担当課長が書いているのは、要するに「人が来ない」を「うちは選ばれていない」と言い換えた、ということです。
需要(求人の量)の問題ではなく、こちらが売っている商品——つまり職場そのもの——の問題として扱う。言葉にすると当たり前ですが、扱いを変えると打ち手が変わります。求人媒体の比較ではなく、残業時間の実測から始まるからです。
ちなみに農業では、働く人の数は25年で半分近くまで減った一方、雇われて働く人(雇用者)は30万人から54万人へ増えています。家業から職場へ、業界ごと引っ越している最中です。だから労働環境が主戦場になる。これは農業だけの話ではありません。建設、塗装、介護、運送——秋田で人を採っている会社は全部、同じ引っ越しの途中にいます。
ただし、順番を間違えると効きません
ここが大事なところです。「労働環境を良くしましょう」という助言だけを受け取ると、やることが1つ増えるだけで終わります。残業を減らすには人を増やすか、仕事の単価を上げるか、作業を減らすしかない。そのお金は粗利からしか出ません。
順番はこうです。
① 値段を自分で決められるか → ② 粗利が残るか → ③ 労働環境を直せるか → ④ 人が来るか
同じ号に、米や大豆は一般的な売り方では自分で価格を決められない、という生産者の言葉が載っています。その会社は加工に移り、いまは売上の6割以上が加工部門です。値段を自分で決められる側に回ってから、労働環境の話が現実になった。
だから「人が採れない」で相談を受けたとき、私が最初に見るのは求人票ではなく、見積書と残業時間です。
AIに任せられるのはどこか
①〜④のうち、AIが一気に前へ進められるのは測るところです。
- 残業の可視化 — 勤怠データと日報を読ませて「誰が・どの作業で・何時間」を出す。手作業なら数日、AIなら30分程度で形になります
- 作業の棚卸し — 「その30分、そもそも必要でしたか」を一件ずつ潰す材料をつくる
- 求人票の書き換え — 実測した数字(残業時間・休日数)を入れた文章に直す。盛らないのがコツです
逆に、値段を上げる交渉と、休みを増やす決断は代われません。社長の腹決めの領域です。
まずは先月の残業時間を、部署ではなく人ごとに出してみてください。だいたい、上位3人に集中しています。
合同会社ヨミノワは、秋田を拠点にAI活用の伴走支援を行っています。
出典: 『AFCフォーラム』2026年8月号(株式会社日本政策金融公庫 農林水産事業)
