導入したシステムを現場が使ってくれない。研修もした、マニュアルも配った。それでも使われない。
認知科学者ドナルド・ノーマンは、この現象を2つの溝(Gulf)として説明しました。
実行の溝と、評価の溝
①実行の溝(Gulf of Execution) — やりたいことがあるのに、どう操作すればいいか分からない状態。
②評価の溝(Gulf of Evaluation) — 操作はしたが、何が起きたのか分からない状態。
現場が離脱する原因は、ほぼこの2つのどちらかです。「意識が低い」でも「年齢が高いから」でもありません。
アフォーダンスとシグニファイア
この溝を埋める道具として、ノーマンは2つの概念を挙げています。
アフォーダンス — そのものが「どう使えるか」を示す性質。取っ手が付いていれば引く、平らな板が付いていれば押す。
シグニファイア — 使い方を人に伝える具体的なサイン。ドアに貼られた「押す」の表示がこれです。
いい設計は、そもそも表示が要りません。押すべきドアには、押せる形をしている。説明書きが必要な時点で、設計が負けているという考え方です。
自社の業務システムに当てはめる
現場が使わないシステムを開いて、この目で見てください。
実行の溝チェック:初めて見た人が、次に何をすべきか3秒で分かるか。ボタンが「更新」なのか「保存」なのか「送信」なのか、言葉がバラバラになっていないか。
評価の溝チェック:ボタンを押した後、何が起きたか画面に出るか。「登録しました」の一行があるか。エラーのとき、何を直せばいいかまで書いてあるか。
だいたい、この2つのどちらかに問題があります。
使う言葉が最大のシグニファイア
中小企業の現場でいちばん効く改善は、実は用語を現場の言葉に合わせることです。
システム側の用語で「案件登録」と書いてあっても、現場では「見積を起こす」と呼んでいる。この不一致だけで、心理的な距離が生まれます。
システムを作り替えなくても、画面のラベルを現場の言葉に変えるだけで定着率が変わることがあります。ベンダーに要望を出す価値のある改善です。
診断の言葉を持つ意味
「なんか使いにくい」では改善要望になりません。「評価の溝が大きい。操作後のフィードバックがない」と言えれば、話が具体的に進みます。
言葉を持つことは、それ自体が改善の第一歩です。
合同会社ヨミノワは、秋田を拠点にAI活用の伴走支援を行っています。
