「AIを入れました。で、結局なにが終わったんでしたっけ?」
最近、この質問をよく受けます。そして正直に言うと、私自身が同じ状態でした。
うちは一人の会社で、実務のかなりの部分をAIに任せています。調べもの、下書き、資料づくり、プログラムの修理。毎日いくつも頼んでいる。でも「先週AIに何を頼んで、そのうち何が終わったか」を聞かれたら、答えられませんでした。
先日の日曜、開発を休んで本を読んでいて、その穴の正体が分かりました。読んでいたのは稲盛和夫さんの『実学』——40年前の会計の本です。
「一対一対応」——モノが動いたら、伝票が1枚動く
稲盛さんの会計原則のひとつに 「一対一対応」 があります。
モノが動いたら、必ず伝票が1枚、同じ番号で一緒に動く。品物だけ先に出て伝票が後から、は許さない。
これ、AIに仕事を頼むときにそのまま当てはまります。
- 仕事を頼む=発注書
- 仕事が終わる=納品書
- この2枚が同じ番号でつながらない仕事=終わったかどうか誰も知らない仕事
そこで自社で数えてみました。半年分です。
| 本数 | |
|---|---|
| AIへの発注書 | 79本 |
| 対応する納品書 | 29本 |
| つながっていた率 | 約37% |
3件に1件しか、終わりの証拠がなかった。
言い訳をすると、「終わっていない」わけではありません。たぶん多くは終わっています。
でも終わったことを確かめる手段がない。だから毎回、人が思い出して探しにいく。これがじわじわ時間を食っていました。
帳簿をつけたら、死体が3つ出てきた
面白いのはここからです。帳簿をつけ始めた瞬間、前から死んでいたのに気づかれていなかったものが出てきました。
① 毎日の作業日誌が、4ヶ月まるごとコピーだった
毎日1本、機械が自動で日誌を書く仕組みを持っていました。全部開いて確かめたら——87日分すべてが、同じ日の内容のコピー。最初の日から一度も正しく動いていませんでした。
原因はたった1行の書き間違い。しかも「すでにファイルがあれば何もしない」作りだったので、間違いを直しても過去の分は永久に直らない。
② 進捗のスコアが4ヶ月ぴったり止まっていた
社内で使っていた進捗ポイントが、ある数字で固まっていました。壊れていたのではありません。設計と運用が正面から衝突していたんです。
ポイントは「案件のステータスが動いたら加点」する仕組み。ところが運用のほうでは「動き続けている常設の仕組みは”完了”にしない」と決めていた。
つまり——ルールどおりに運用するほど、点が入らない。
🔴 常に0を返す指標は、「健全」ではなく「壊れた計器」です。
③ 機械が、人の目をすり抜けて情報を運んでいた
うちは社内ルールで「お客様の名前は記号で書く」と決めています。人が書く文書はすべて守っていました。
ところが新しく作った集計プログラムが、ファイルの保存場所をそのまま書き出していた。その保存場所の名前に、お客様の名前が入っていた。
人が書く文書だけを見張っても、機械が毎日それをすり抜けます。
現場でそのまま使える3つの型
型①:紙を増やすな、番号を振れ
「発注書・受注書・納品書の3枚を作ろう」と考えがちですが、これは失敗します。紙が3枚になると、書き忘れる場所も3つに増えるからです。
正解は、いま使っている記録に同じ番号を1行足すだけ。受注は「受け取りました」という1行の事実であって、書類にする必要はありません。
型②:作った人に、検査を書かせない
稲盛さんのダブルチェックは、人を疑うための仕組みではありません。「人を罪人にしない」ための仕組みです。一人に金庫と帳簿の両方を持たせなければ、その人が魔に差すこともない。
AIに移すとこうなります——AIは嘘をつきませんが、自分の失敗には気づけません。
だから「作ったAIが自分で点検する」形にすると、悪気ゼロのまま間違いが通ります。
実際、この仕組みを作っている最中に自分でやりました。修理した装置を点検して「✅合格」と出たのに、点検が見ていたのは別のものでした。
型③:率ではなく「本数」を見る
達成率は、新しい仕事を記録するたびに一時的に下がります(新しい依頼が先に分母に入るから)。
ここが罠で、率が下がるのを”悪化”と読むと、人は記録をつけなくなります。分母を増やさないのが、一番ラクに率を保つ方法だからです。
見るべきは率ではなく、「終わっていないまま止まっている件数」。これは増えたらそのまま悪い知らせです。
一番大事な落とし穴
ここまで書いておいてなんですが、新しく計器(メーター)を作ると、たいてい「壊れても壊れたと言えない計器」になります。
さっきの死体3つは、全部そうでした。壊れていることを自分で言えなかったから、4ヶ月生き残った。
なので作り直すとき、こう変えました。
加点がゼロの日が 14日続いたら、計器が自分で黄色を出して「また止まっている疑いがあります」と言う。
異常を見つける仕組みより先に、「自分が死んだことを言える仕組み」を入れる。
これは AI に限らず、日報でも在庫表でも売上グラフでも同じです。
明日からできる、いちばん小さい一歩
道具もお金も要りません。
- AIに何か頼んだら、その場で1行メモに残す(日付・頼んだこと・それだけ)
- 終わったら、その行を消す
- 1週間たっても消えていない行を、金曜に数える
これだけで「頼んだつもりで終わっていない仕事」が見えます。
ちなみにうちは、この1行を機械にやらせています。毎朝勝手に数えて、放置が出たときだけ知らせてくれる。普段は黙っています。
AI時代の帳簿は、何を数えるのか
AIの効果を「作業時間が何%減ったか」で測ろうとすると、たいてい測れません。減った実感はあるのに、数字にならない。
うちがいま数えているのは「閉じた仕事の数」です。
頼んで、終わって、終わったことが証拠として残った仕事。その数が積み上がっているなら、AIは効いています。
40年前の会計の本が、いちばん新しい道具の使い方を教えてくれました。
新しいものを入れるときほど、古い作法が効きます。
この記事の数字はすべて、弊社(合同会社ヨミノワ)自身を実験台にした実測値です。お客様の事例は含みません。
