「AIを使うと、何か法律に引っかかるのでしょうか」。秋田県内のお客様から、この夏いちばん多くいただいた質問です。
結論から言うと、いまの日本に「AIを使う会社を取り締まる法律」はありません。ただし、国が「こう使ってください」という考え方を示した文書はあり、2026年3月に最新版が出ています。この記事では、それを中小企業の目線で読み解きます。
当社は自社のガイドラインを実際に作って公開しました(生成AI活用ガイドライン/AI活用宣言)。その過程で分かった「詰まりどころ」も一緒に書きます。
1.いま押さえるべき文書は4つだけ
| 文書 | いつ | 中小企業にとっての意味 |
|---|---|---|
| AI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律) | 2025年6月4日公布/同年9月1日全面施行 | 規制法ではなく推進法。罰則はありません。企業向けの条項は第7条「活用事業者の責務」が中心で、内容は国の施策への協力です。 |
| 適正性確保に関する指針 | 2025年12月19日決定 | AI新法第13条に基づく指針。 |
| 人工知能基本計画 | 2025年12月23日閣議決定 | 国の推進計画。 |
| AI事業者ガイドライン 第1.2版 | 2026年3月31日公表(総務省・経済産業省) | 実務で読むのはこれ。法的拘束力はありませんが、事実上の標準です。 |
つまり「守らないと罰せられる」ものではありません。それでも作る意味があるのは、お客様と金融機関に見せられるからです。
2.第1.2版で何が変わったか
第1.1版(2025年3月)からの主な変更は次のとおりです。
- AIエージェント・フィジカルAIの定義が追加されました。自律的に手順を判断して動くAIが実務に入ってきたことへの対応です。
- AIによるリスクの記載が見直されました。
- 同一の事業者が複数の主体を兼ねる場合が明示されました。
- AI新法・適正性確保指針・政府自治体向けガイドラインへの参照が追加されました。
- 別添のサービス事例が大幅に追加されました。
中小企業にいちばん効くのは3つ目です
ガイドラインは事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けています。多くの中小企業は「利用者」だと思っていますが、お客様の業務にAIを組み込んで納品した瞬間、その会社は「提供者」にもなります。
当社がまさにそうです。自社業務でAIを使う「利用者」であり、お客様のシステムにAIを組み込む「提供者」でもある。第1.2版はこの重なりを明示しました。兼ねている自覚がないまま提供者の責任だけ発生している、という状態が一番危ういと考えています。
3.共通の指針10項目は、身構えなくていい
ガイドラインには10の共通の指針があります。人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーション。
並べると重たく見えますが、中小企業の実務に落とすとほとんどが「もうやっていること」か「一行決めれば済むこと」です。当社の実装は生成AI活用ガイドラインの第4章に全部載せました。10項目それぞれに1〜2行です。
たとえば「アカウンタビリティ」は、当社の場合こう書きました。
「誤りがあった場合、『AIが出力した』を免責の理由にしません。責任は当社が負います。」
難しいことは書いていません。難しいのは、書いた以上それを守ることのほうです。
4.実際に作って分かった詰まりどころ3つ
① いちばん時間がかかるのは「どこまでAIに渡すか」の線引き
文章を書くのは30分で終わります。悩むのは、決算書を外部AIに渡していいか、介護記録はどうか、顧客名は伏せれば足りるのか。ここを決めないまま運用しているのが、実際にいちばん多い状態です。当社はデータを3分類にして、個人情報・財務情報は原則として外部AIに渡さず、必要な場合は記号化するかローカルLLMで処理する、と決めました。
② 「入力が学習に使われない設定」になっているかは、契約ごとに違う
同じサービスでも、プランや設定によって扱いが変わります。「たぶん大丈夫」で運用しないでください。管理画面で現在の設定を1回確認すれば済む話です。
③ ID・パスワードを預かってしまう問題
これはAIの話ではありませんが、AI導入支援とセットで必ず出ます。お客様のIDとパスワードを預かって代わりにログインするのは、多くのシステムで利用規約違反です。補助金の電子申請システムでも同様です。当社は預からず、社長の席でご本人に操作していただく形にしています。
5.中小企業がやるなら、この順番
- 使っているAIを書き出す(ツール名と用途。10分)
- 入力データの設定を確認する(学習に使われる設定になっていないか。10分)
- 渡さないものを決める(個人情報・財務情報をどう扱うか。ここだけ時間をかける)
- 誰が最終確認するかを決める(1人法人なら自動的に決まります)
- 1枚にまとめて公開する(お客様に見せられる形にして初めて意味が出ます)
所要は半日です。お客様から聞かれてから作ると、その場では出せません。
6.最後に
AIを使うこと自体は、もう競争優位ではありません。差がつくのは「どこまでAIに任せ、どこから人間が引き受けるか」を先に決めて、外に出せるかどうかです。
当社は自社で作って公開しました。作成の相談はお問い合わせフォームから承っています。初回30分は無料です。
本記事は2026年8月14日時点で公表されている資料に基づいています。国のガイドライン・指針は随時更新されるため、着手時には必ず最新版をご確認ください。
