2026年9月21日付の日経MJに、一見まったく関係のない三つの記事が並んでいました。魚の話、転職の話、介護の賃金の話です。
並べて読むと、同じことを言っていました。
「使えない」と言われていたものは、素材が悪かったのではない。手を入れる工程が無かっただけだった。
以下、順に見ていきます。
1. ボラ ── 卵は三大珍味、身は捨てられていた
日本三大珍味のひとつ、カラスミの原料はボラの卵です。ところが同じ魚の身のほうは「独特の臭いがある」とされ、食用としてほとんど流通してきませんでした。
その扱いが変わりつつあります。中島水産は、河口付近ではなく沖で獲れた徳島県産のボラを、水揚げ後に生け締めと血抜き(=獲ったその場で締めて血を抜く処理)をしてから使うことで、臭みをかなり抑えられるとしています。同社はこの刺身を9月上旬のイベントで初めて店頭に出しました。
オカフーズはベトナムの委託工場で骨を取り、切り身にして扱いやすくしました。スルメイカやサンマ、サバの価格が上がるなか、比較的安く仕入れられる魚として選ばれています。水産庁も2026年7月から、持続的な水産資源として低・未利用魚(=獲れるのに市場に出ない魚)の活用促進に本格的に取り組み始めました。
ここで確認しておきたいのは、ボラという魚は何も変わっていないということです。昔から同じ海に同じだけ泳いでいました。
臭いの原因は魚の性質ではなく、河口で獲り、締めずに運んでいた手順のほうにあった。手順を変えたら、値札のつかなかったものに値札がつきました。
2. ミドル採用 ── 50代の転職が7年で5.8倍
同じ紙面に、人材サービス大手エン・ジャパンの調査が載っています。
35〜59歳の転職者数は、2025年には2018年比で約2.5倍。年代別に見ると、50代は5.8倍、40代が1.9倍、30代が1.7倍でした。転職後の年収が「増加した」という回答は48%で、2018年の38%から10ポイント増えています。
同社は、企業に求められるのは年齢を見ることではなく、その人の経験や能力が自社の課題解決にどう生かせるかを見る採用への転換だ、という趣旨のコメントを出しています。
これも構造は同じです。50代の人材は昔からいました。
年齢は、中身を見ずに候補者を外せる、最も手間のかからない選別の道具でした。人手不足でその道具を使う余裕が無くなったとき、これまで見ていなかった在庫が出てきた。
出てきたのではなく、ずっとそこにいたのを見ていなかった、というほうが正確です。
3. 介護の賃上げ ── 最大1.9万円のはずが、実感は3割
そして三本目。ここが今回いちばん重い話です。
2026年度、介護報酬が臨時に改定されました。通常は3年に1度の改定ですが、人手不足を受けて期中に行われたものです。厚生労働省の資料によると、改定率は+2.03%、そのうち処遇改善分が+1.95%(=職員の賃金を上げるための原資)です。処遇改善加算は2026年6月分から新しい形で算定されています。
この改定では、賃上げ額として「介護職員は最大で月1.9万円」という数字が広く報じられました。
いっぽう、介護人材サービスのエス・エム・エスが介護従事者555人に行った調査(2026年6〜7月)の結果は、こうです。
- 基本給の賃上げがあった … 12.1%
- 賞与などで支給があった … 9.2%
- 給与への反映はない … 29.7%
- わからない … 38.9%
賃上げを実感している人は、支給予定を含めても31.4%。そして賃上げがあった人に金額を聞くと、最も多かったのは「1000円未満」で25.5%でした。
さらに、改定について会社から説明が「なかった」という回答が55.3%。「十分だった」はわずか9.7%です。
なぜ1.9万円と1000円が同時に起きるのか
この落差には、はっきりした理由があります。最大1.9万円というのは、次の三つが全部そろった介護職員の数字だからです(厚生労働省の資料の整理による)。
| 区分 | 月額 | 誰が対象か |
|---|---|---|
| 幅広い賃上げ | 1.0万円 | 処遇改善加算を算定する事業所の介護従事者全体 |
| 上乗せ | 0.7万円 | 生産性向上・協働化に取り組む事業所の介護職員 |
| 定期昇給 | 0.2万円 | 事業所が定期昇給を実施した場合 |
つまり、事業所が取っている加算の区分によって、届く額はまったく違います。今回の改定で加算の区分が組み直され、上乗せ分を取るための区分が新たに設けられました。訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援などに処遇改善加算が新しく設けられたのも今回からです。
ここまで分かっていれば、「うちは上乗せの区分を取っていないので、今回は幅広い賃上げの分だけです」と一言説明できます。
説明が無いと、どうなるか。職員から見えるのは「1.9万円と聞いたのに、1000円しか上がらなかった」という事実だけです。そして多くの人は「会社が中間で抜いている」と考えます。実際には抜いていなくても、そう見えます。
これは情報の問題ではなく、定着の問題です。
4. 三つに共通するもの
並べ直します。
| 素材 | 工程が無いとき | 工程を足したあと |
|---|---|---|
| ボラ | 臭い魚(値札なし) | 刺身・フライとして流通 |
| 50代の人材 | 「年齢的に難しい」 | 転職者数5.8倍 |
| 介護の賃上げ | 実感31.4% | ここが空いている |
ボラには生け締めという工程があり、採用には「この人の経験はうちのどの課題に効くか」を言葉にする工程があります。では介護の賃上げに必要な工程は何かというと、説明です。
そして説明という工程は、今、ほとんどの現場で誰の持ち場にもなっていません。
理由は怠慢ではなく、構造です。説明しようとすると「なぜ1000円なのか」を説明することになる。それは会社にとって気まずい。気まずい仕事は、誰の担当にもならないまま残ります。
値打ちは素材ではなく、下処理につきます。そして下処理を誰がやるかが決まっていないとき、それは永遠に行われません。
5. 明日からできること
介護事業所に限らず、賃上げや制度変更を従業員に伝える立場の方へ、三つだけ挙げます。
① 「いくら来たか」と「いくら配ったか」を分けて書く
一枚の紙に、①制度からいくら来たか ②そのうちいくらを給与に回したか ③残りは何に使ったか(人員増、設備、既存職員の別の手当など)。この三行があるだけで、話がまったく変わります。
② 「なぜその額か」を先に言う
聞かれてから答えると弁明になります。配る前に言えば説明になります。同じ内容でも、順番で受け取られ方が変わります。
③ 来年どうなるかを一行添える
今回の改定は2027年度の通常改定の前に行われた臨時のものです。次があることを知っているだけで、今回の額の意味が変わります。
いずれも、時間にすれば30分ほどの作業です。ただし、誰の担当かが決まっていないと、この30分は永久に発生しません。
6. 線引きについて
念のため書いておきます。
処遇改善加算の区分判定や算定要件、届出の実務は、所管の行政庁と社会保険労務士の持ち場です。当社はその判定を行いません。
当社がやっているのは、数字を同じ物差しに並べ直し、それが何を意味するかを、受け取る人が受け取れる形にして渡すところまでです。言い切る必要がある場面では、言い切れる専門家へお繋ぎします。
出典
- 日経MJ 2026年9月21日付(ボラの記事、エス・エム・エス調査、エン・ジャパン調査)
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」(社会保障審議会 介護給付費分科会 第253回 資料1) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001647819.pdf
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00073.html
この記事は、AIが資料を集めて下書きし、代表が確かめて公開しています(AHW)。